
先週放送されたNHKスペシャル「パール判事は何を問いかけたのか ~東京裁判・知られざる攻防~」からのメモをアップしておきます。
(すでに他のブログでも多く取り上げれられていますが、せっかくメモしたので(^^ゞ)
※再放送が 2007年8月22日(水)深夜【木曜午前】0時10分~1時04分にあります。
そちらを見たい方には、以下はネタバレになりますので、ご注意を。
パール判事について、パール判事の後輩で、カルカッタ高等裁判所の元長官のA.M.バタチャルジー氏が語るところによれば・・・、
パール判事は自分の判決を根拠に日本の侵略行為が支持されることがあってはならない、と言っていました。あの当時、侵略戦争は国際法上はは犯罪と認められないとの立場でしたが、イギリスであれ、アメリカであれ、日本であれ、侵略戦争は悪いことだと言っていました
また、長男のプロシャント・パールさんによれば・・・、
父は、マハトマ・ガンジーを尊敬していました。国家の父と思っていました。その気持ちは、他のすべてのインド人と変わらぬものでした。
パール判事は、ヒンズー教徒としてマハトマ・ガンジーと同じ、敬虔な平和主義の宗派に属していたそうです。そしてそれを反映してか、パール判事独自の判決書には、この暴力を憎む考え方があちこちに記されているそうです。
自らタイプライターで打った1200ページあまりの記述。自ら手書きで修正を加えた後も残っている判決書。そして、暴力を憎む考え方は、日本軍の残虐行為にも向けられていたようです。番組の中で、パール判事の判決書から番組内で引用された箇所を書き取ってみました・・・。
■満州国建国についての記述
「満洲の舞台において、満州国という狂言を演ずる力も、また満洲の支配権を握る力も、日本の「武力」によって獲得されていたのである。これはある点では、西洋諸国のやり方を模倣したいという願望に、その原因を求めることもあろうかと考えられる。この願望とは、明治時代の初期から、日本人の心の中に、一つの「固定観念」になっていたものである。」
■"バターン死の行進"についての記述
「" バターン死の行進"は実に極悪な残虐である。灼熱の太陽下、120キロメートルにわたる9日間の行軍の全期中、約6万5000名の米国人、およびフィリピン人俘虜(捕虜)は、その警備員によって蹴られ殴打された。病気あるいは疲労のために行進から落後したものは射殺され、あるいは銃剣で刺されたのであった。」
■南京事件についての記述
「宣伝と誇張をできるかぎり斟酌しても、なお残虐行為は日本軍がその占領したある地域の一般民衆、はたまた戦時俘虜(捕虜)に対し、犯したものであるという証拠は圧倒的である。」
■アジア太平洋各地での日本軍の行為についての記述
「それらは戦争の全期間を通じて、異なった地域において、日本軍により非戦闘員に対して行われた残虐行為の事例である。主張された残虐行為の鬼畜のような性格は否定し得ない。」
※シンガポールの華僑虐殺やカラゴン事件、マニラ市街戦での住民虐殺などのことでしょうね・・・。他にも規模は小さくてもこの手の事件は沢山あったようですし・・・。
■原子爆弾についての記述
「非戦闘員の生命財産の無差別破壊というものが、いまだに戦争において違法であるならば、太平洋戦争においてはこの原子爆弾使用の決定が第二次世界大戦中におけるナチス指導者達の司令に近似した唯一のものである」
■西洋諸国の植民地支配に対する強い批判
「西洋諸国が今日、東半球の諸領土において所有している権益は、すべて主として武力をもってする暴力行為によって獲得されたものであり、これらの諸戦争のうち「正当な戦争」とみなされるべき判断の標準に合致するものは、おそらく一つもないであろう。」
※日本であれ、連合国であれ、残虐行為を徹底して憎むパール判事。そこには絶対的な平和思想が貫かれていた、ということのようです。
■日本の戦争指導者についての記述
「日本の為政者、外交官、および政治家らはおそらく間違っていたのであろう。また、おそらく自ら過ちを犯したのであろう。」
しかし、事後法による裁きは認められないと言う信念は当初から貫かれた結果として被告全員無罪
「第二次世界大戦以前にあっては、国際法の発展の程度はまだこれらの行為を犯罪もしくは違法とする程度には至っていなかった。」
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パール判事の肉声より
『(日本に対する)好意や親切心のためだと思ったことはありません。私は正しいことをしたかったのです』
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パール判事は暴力を憎む思想と、法の専門家としての信念を貫いたのであり、決して「日本は悪くない」などとは言っていないようです。
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番組内容とは離れますが、長男のプロシャント・パールさんの言葉を、ある本から紹介します。
パールの息子であるプロサント・パール。東条英機をはじめとする日本の戦争指導者を美化する映画『プライド』が彼の「心を傷つけ、憤らせている」とインドの新聞「インディアン・エクスプレス」は報じた。
「父が渾身の力を振りしぼってまとめ上げた判決書を、自分の政治的立場を補完する材料として利用しようとする者への怒りは、きわめて厳しかった」
上記は、紙屋研究所様の、「中島岳志『パール判事 東京裁判批判と絶対平和主義』」感想記からの引用です。
さて、パール判事の信念を、都合良く解釈・曲解して自分たちの主張を補完しようとするのは誰ですか???
※2007/08/24追記
きち@石根さんのところで、上述した「インディアン・エクスプレス」の記事の訳がでていたのですが、パール判事のご子息であるプロサント(プロシャント)・パール氏が憤ったのは、映画「プライド」の内容ではなく、もともとパール氏がテーマの映画と聞かされていたのが、いつのまにか東条英機が映画の中心人物となってしまっていたことのようです。
「インディアン・エクスプレス」記事(英文)を見ても、確かに中島岳志氏の記述は変ですね。。。まぁ、上記の記事が、中島岳志氏の見たと別物という可能性もあるかもしれないので、とりあえず保留・・・。
まぁ、パール氏も人間ですから、長い人生のうちで新たな情報や知識によって意見を変えることはあるでしょう。でも、イデオロギーによって、都合のいいところのみを取り上げて、自分達の主張を補完するのは右も左も同じですから、やはり、いろいろな角度から見ないといけませんね。
まぁ、どちらにしても、「無罪だから悪くなかったんだ」という主張を目にすると、今の私はどうしてもホリエモンを連想してしまいます(苦笑)「法に触れなきゃなんでもあり」か?と・・・。
大切なのは、過去の日本に善悪の判断を下すことよりも、歴史から教訓を学び取って今後の日本を造っていくことだと強く思います。
※2007/8/27
さらに追記があるのですが、長くなるので別エントリーにしました。
→「パール判事の主張」の追記の追記
パール判事―東京裁判批判と絶対平和主義
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