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命惜しまぬ日本兵   

今回も、五百旗頭 真著「日米戦争と戦後日本」から引用してみたいと思います。

なお、このエントリーは下記の続きとなります。
大東亜戦争中に始まったアメリカの対日占領政策
アメリカが計画していた日本本土決戦
アメリカが計画していた日本本土決戦-2
硫黄島、沖縄戦は米軍の「敗北」!?


命惜しまぬ日本兵(P.103~)
どうすれば日本との戦争を終わらせることができるのか、日本本土決戦にはどれくらいの犠牲を強いられるのかを、アメリカ政府は再検討せざるを得なくなった。それだけに太平洋戦争の現場からワシントンに届いた、ある報告書が注目された。捕虜の意識調査をしていたジョン・エマーソンらのグループが、日本人捕虜に対して、君たちはいかにすれば武器をおくのか、と言うインタビューをし、その結果を報告してきたものであった。

国際常識では、組織的戦闘能力がなくなった場合、兵士が武器をおいて素直に捕虜になるのが、自身のためでもあり、約束事でもあった。個別に抵抗したところで無駄に命を捨てるだけである。そんな非人道的なことはやめようと国際法は、その場合の手続きを決めている。捕虜収容所に収容し、終戦まで安全を保証する。その際の条件は人道的要請を満たすものでなければならない、と定めている。

ところで、日本兵はその定めを教えられていなかった。逆に、一九四一年一月八日、当時の陸軍大臣東条英機が「戦陣訓」というものを全陸軍に示達して、「生きて虜囚の辱めを受けず、死して罪禍の汚名を残す事なかれ」と教育した。それゆえ、死を求めての突撃をしたり、バンザイ・クリフから飛び降りて死んだりする。アメリカ側にはその行動が理解できなかった。

それでも、中には故意または事故によって、捕虜になる兵もいた。アメリカ側の戦時フィルムには、白旗を掲げた日本兵が、後ろから撃たれないように気を使いながら出てくるシーンがある。「戦陣訓」にもかかわらず、家族のためにも、自分はここで死ぬわけにはいかない。故郷に帰ってももう一度お袋さんや家族の顔が見たい、あのやさしい故郷の山河を見たい。あのやわらかい水を飲みたい、という思いが残るのは、人間である以上、当然の心情である。

彼らは、多くの場合、捕虜になった途端にものすごく素直になった。捕虜にすることを国際法のしきたりとして教育している国では、捕虜になっても軍の機密は漏らすな、敵に利することは話すなと教えていた。ところが日本軍の場合には、絶対に捕虜になるなと教える以上、もし捕虜になった時には、と言う教育ができなかった。それゆえ彼らは、捕虜になった途端に、日本社会から切れたという思いの中で、本名は名のりたがらないけれども、非常に素直になったのである。

同志社大学にオーティス・ケリー(Otis Cary)という、小樽に生まれ育った日本語が堪能な教授がいる。彼は、ハワイで日本人捕虜を並ばせて名前を名のらせたとき、ハセガワ・カズオという名があまりに多いので、ついいたずらっ気を起こして、あんまり似てないな、と日本語で言ったら、日本兵はギクッとしたと述べている。

「鬼畜米英」と教えられていたのが、食べ物もミルクもくれ、傷の手当てまでしてくれることに感じ入るものもいた。日本兵に、君たちはどうしてあれほどまでに抵抗するのか、それほど死にたいのか、何のために死を賭してまで戦うのか、と聞くと、答えは意外にはっきりしている。それは郷土を守るためだ、父母や子供、兄弟、同胞を守るためだ、天皇を守るためだ、そのためであれば、日本人は命を捨てる、と圧倒的多数の捕虜が答えた。

ただ国民性として戦闘的であり、目的なしに死にたいという人間につける薬はない。名誉のために絶対に死ぬまで戦うというのも厄介である。ところが、目的がある人間とは話ができる。つまり父母兄弟を守りたい、あるいは天皇制を守りたいというのであれば、では、それを保証すれば君たちは武器を置くか、と問いかけることができる。

もちろんだ、とその答えもまた非常に高い比率で一致していた。「もし天皇が武器を置くことを命ずれば、もちろん天皇の言葉に従う」と、極めてはっきりしていた。つまり、死に吸い寄せられるばかりの狂った戦士に見える日本兵も、条件次第では和平に応ずる。その条件とは、日本本土の所領安堵と天皇制の容認であるというのが、意識調査から得られた結論であった。
(中略)
硫黄島や沖縄で示された日本軍の命知らずな抵抗は、はたして予定通り日本本土決戦をやっていいものかどうか、アメリカ側に再検討を求める効果を持った。

上記は日本人捕虜の意識を調査した結果、アメリカ側が本土決戦計画を見直したという話ですが、別の側面から、たとえば特攻についてその影響を少し見てみたいと思います。特攻の具体的な戦果の統計は定まっていないようですが、「特攻へのレクイエム」という本によれば、航空特攻による米艦艇の損傷は40隻、出撃総数3300機のうちの命中率は11.6%、また回天の命中は3基だそうです。しかしその具体的戦果と同時に米兵に与えたメンタル面の影響が少なくなかった・・・。
毎日のように襲ってくる神風特攻隊の攻撃に、米艦隊の乗組員達はみな「神風ノイローゼ」になった。空母ワスプの搭乗員113名の健康診断をしたところ、わずかに30名が戦闘に耐えうる状態で、他は過労のため休養を必要とする状態であった。
また実際に体当たり攻撃を受けたり、目撃したことのある米将兵達は「真一文字に突っ込んでくる特攻機を見ると身の毛がよだった」と告白し、多くの米軍兵士が文字通り必死の覚悟で体当たりをしてくる特攻隊の攻撃に対して、神経をすり減らし恐怖心を感じていたと記録されている。
特攻へのレクイエム P.26~)

これを見るだけでも、日本軍の必死の抵抗が、具体的軍事的戦果にも増して政治的な影響をもたらしたという裏付けになると云えるかも知れません。

さて、一連のエントリーで紹介したとおり、当初は日本の強硬派もアメリカも「日本本土決戦」を想定していました訳ですが、それが実行に移された場合のその死傷者数は五百旗頭氏のいうとおり、倍になっていたかも知ないわけですが・・・、
第二次大戦における日本人の死者は、軍人・民間合わせて約350万 人だが、ポーランドやドイツでは700万人にものぼる。ソ連の2000万人というのは桁外れだけど、日本より小さな国で2倍の死者が出ている。これは、本土決戦があったか否かの違いによる。

もし日本本土決戦が行われた場合、今パソコンの前でこのエントリーを書いている私も読んでいるあなたも、ひょっとしたらこの世に存在していなかったかも知れない・・・。もしかしたら下の図のように日本が分断されてしまったかも知れない・・・。少なくとも、日本本土決戦や国家分断があった場合、現在の日本より良い状態になるとはどうしても考えにくい。本土決戦が避けられたということは、その後の日本の歴史にとって最悪の事態を避けられたということに他ならないと思います。



「日本の分割統治計画」Wikipediaより

そもそも日本が戦争を始めなければ、こんな事にはならなかったという意見もあるでしょう。ハルノートを突きつけられた時、開戦以外の選択肢があったかどうかについては議論も分かれるところでしょう。しかし、支那事変に反対していた人達でさえ真珠湾攻撃を「これでサッパリした」と云うほどに、国民の中でも開戦賛成派が多数だった当時の日本の空気を差し置いて、戦後生まれの我々が開戦を簡単に批判することはできないと思います。
それに何よりも、必死の抵抗で命を落とした人達は開戦を決断した当事者ではないのです。
もちろん本土決戦回避や分割占領案の中止には、他の様々な要因があったわけですが、現在の日本があるのは、命をかけて祖国を守った人達のおかげでもあるというのは間違いないと言って良いでしょう。そう考えると私は彼らに感謝の念を持たずにはいられません・・・。

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■参考書籍
日米戦争と戦後日本
4061597078
五百旗頭 真


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4120031675
工藤 雪枝


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